Takafumi KIJIMA Exhibition “o Herbário” 作品解説

 “o Herbário” 作品解説 / 木島孝文

 

 2019年末に端を発し、今なお世界中を席巻し続けている新型コロナウイルス感染症。これに対抗する個人レベルでの安全確保の手段として提唱された「ソーシャル・ディスタンス」(social  distance=社会距離)は、他者と自分を隔離することで、被感染の脅威から身を守り、また逆に加感染の危険から他者を守る考えとして、今や世界中の人間に定着しています。他者との接触を拒絶すべし、という考えですが、これはその反面、自分と他者の存在感や距離感などの関係性に対し、我々に再認識の機会をもたらし、他者の存在をより強く肯定的に認める意識を育てる、切っ掛けともなったのではないでしょうか。

 国ごとに細かい数値は違いますが、「ソーシャル・ディスタンス」とは、「パーソナル・ディスタンス」(Personal distance=個体距離)以上の距離を取る、という考え方です。

個体距離とは、成人が手を延ばしたときに、指の先で触れられる距離が基準とされます。つまりこの自分を中心とした半径1m程度の空間が、物理的に、またその体験を通じて精神的に、他者との影響に抗えない空間である、ということになります。その抗えない影響とは、他者からの(同時に他者への)感染であり、侵食であり、また同時に共感であり、赦しであり、時には毒ともなり、薬にもなり得るものです。個体距離とは、「他者と関わることが出来る距離」ではなく、「他者と関わらざるを得ない距離」と言えるでしょう。

 

 今回の展覧会では「o  Herbário」(=植物標本)と題し、毒草と薬草という二面性を持つ、7つの植物をモチーフとした作品を展示します。

 

 会場であるGallery Nayutaは、四辺が2m弱という大きさの展示空間です。これは、ちょうど個体距離と相当の空間となります。その限られた箱の中で、自分という個体を強く意識しながら作品を鑑賞し、手で触れることに集中してもらうことで、今我々の枷となっている「個体距離」を、むしろ肯定的に楽しむことができたら、と願っております。

ギャラリー会場の向かって左手前が①番。以下、時計回りです。

 

 

① A.R.#180 Artemisia absinthium” L’ Absinthe (ニガヨモギ)

 

 学名のabsinthiumは「聖なる草」を意味するエルブ・アブサントに由来する。artemisiaはギリシア神話における月の女神アルテミスの名から。英名"Worm wood"はエデンの園から追放された蛇の這った後に生えたという伝説に由来するとも、防虫剤に使ったからともいわれる。北欧のバイキングの間では死の象徴とされており、新約聖書・ヨハネの黙示録では、「苦よもぎ」という星が落ちて多くの人が死ぬという預言がある。

 ローマ時代から、受胎・分娩をはじめ、女性だけの病気を治すと信じられ、その薬効と同時に魔除けの草としても、不思議な力があるとされてきた。

 葉、枝を健胃薬、駆虫薬として用いられ、干したものを袋に詰め衣類の防虫剤として使う。清涼飲料水、リキュール、ハーブ酒などに香り付けなどの目的でもつかわれる。食品添加物として認可されており、狭義ではカフェインと同じく苦味料に分類される。ニガヨモギを用いたリキュール「アブサン」は世界で最も強い酒とされ、「緑の魔酒」と呼ばれる。一度にたくさん摂取すると含まれるツヨンにより嘔吐、神経麻痺などの症状を引き起こす上、習慣性が強いので連用は危険である。フランスの詩人ヴェルレーヌは、ロートレックやゴッホ、モディリアーニなどと同じくアブサン中毒に陥り、破滅的な人生を送ったとされる。アブサンの幻覚作用によってもたらされるインスピレーションは、芸術家たちにとってはこの上ない甘い汁であり、アブサンそのものを「緑の妖精」(L’ Absinthe)と喩えることもあった。

 

 

 

② A.R.#168 Convallaria majalis Kaparape (スズラン)

 

 スズラン鈴蘭、学名Convallaria majalisは、スズラン亜科スズラン属に属する多年草の一種。狭義にはその中の一変種Convallaria majalis var. keiskeiを指す。君影草(きみかげそう)、谷間の姫百合(たにまのひめゆり)の別名もある。その可愛らしい見た目に反し、強心配糖体のコンバラトキシン (convallatoxin)、コンバラマリン (convallamarin)、コンバロシド (convalloside) などを含む有毒植物で、有毒物質は全草に持つが、特に花や根に多く含まれる。摂取した場合、嘔吐、頭痛、眩暈、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの症状を起こし、重症の場合は死に至る。

 日本の深奥地方、銭亀沢に咲くスズランは、赤い花をつけるという。それにはこんな逸話がある。

 昔、銭亀沢の近くのある村に、それはそれは美しいカパラペという娘がいた。同じ村にはキロロアンという勇猛な若者が住んでいたが、二人は仲睦まじい恋人同士であった。

 キロロアンは腕のいい猟師だったが、カパラペの親である村長に認められる強い男になりため森で出会った大きなクマを狩ろうと矢をいった。キロロアンは壮絶な格闘の末、腰の小太刀マキリを熊の心臓に突き立てて仕留めるが、キロロアンもまた無事では済まず、脇腹に負った深い傷のために息絶えた。その知らせを聞きつけ、恋人の亡骸を目の当たりにしたカパラペは、未だ熊の心臓に突き立っていたキロロアンのマキリを引き抜き、村人の静止も間に合わず自らの喉を貫き、恋人の体に重なるように倒れて死んでしまった。

その際周囲に飛び散ったカパラペの血潮が、周囲に咲いていたスズランを赤く染め上げた。

以来この周辺に咲くスズランは薄赤いスズランが咲くようになったという。

 実際に銭亀沢のスズランは薄赤い色を持つが、その群生地がマンガン廃坑の付近であるため、土壌の成分が関係した現象なのでは、と言われている。

 

 

 

③ A.R.#177 Verbena officinalis” Isis  (クマツヅラ)

 

 クマツヅラは、古代では祭壇に捧げる花として尊重されていた。古代エジプトでは「イシスの涙」と呼ばれ、儀式の際には祭壇で燃やされた。またローマでは主神ジュピターの妃の名から、「ユノの涙」と言われ、やはり祭壇に捧げられた。

 クマツヅラには催淫効果があるとされ、中世ヨーロッパでは結婚式にも使われたという。また伝染病を退ける薬草としても重宝され、このことから魔除けとしても扱われていた。またクマツヅラはドイツ語では「鉄の草」(Eisenkraut)といい、これはこの草が持つ成分が鉄剣による切り傷に効能があると信じられていたためである。更にキリスト磔刑の際にその血を止めたのがクマツヅラだったという伝説もあり、こうしたことからこの植物がいかに人の文化と生活に馴染んでいたものかを示している。

 以上のようにクマツヅラは薬草としての特徴が多いが、毒草としての側面も持つ。この植物に含まれるベルベナリン、ベルベニン、ベルベナロール、タンニンなどの成分は、人体に腹痛や麻痺を引き起こす。

 イシス(Ísis)は、エジプト神話における豊穣の女神で、ヘリオポリス九柱神の一柱。オシリスの妻(妹でもある)にして、天空の神ホルス(隼のモチーフで表される)の母とされる。外見は鳶、あるいは鳶の翼を持つ女性として表され、息子ホルスを抱く姿を象った像(「ホルスに乳を与えるイシス女神」像など)は、「黒い聖母」として後のカトリックにおけるマリア信仰と聖母子像の原型となった。

 オシリスとホルスとの関わりを描く伝説においては献身的な母や妻としての性格が強く表されているが、他の神話的物語では、強力な魔術師的存在として描かれ、そのため「偉大なる女魔術師」の称号を与えられ、中世ヨーロッパではイシスは魔女の元祖とされることもある。

 

 

 

④ A.R.#169 “Moly” Circe (モーリュ)

 

 モーリュはギリシア神話に登場する薬草。

 ホーメロスの『オデュッセイア』によると、トロイア戦争に勝利したオデュッセウス一行が帰国の旅でアイアイエー島に上陸した際、島に住む魔女キルケーはオデュッセウスの部下たちに毒を混ぜた飲物を飲ませ、杖で打って豚に変えてしまった。オデュッセウスはこのことを逃げてきた部下のエウリュロコスから聞き、キルケーの館に向かった。そのときヘルメースが現れてオデュッセウスにモーリュという薬草を与え、キルケーの魔法を防ぐ方法を授けた。そこでオデュッセウスはキルケーのところに行き、出された飲物にモーリュを入れて飲み、キルケーの魔法を防いだ。

 この『オデュッセイア』以外でもキルケーは変化の魔術を使う優れた魔女として知られ、他のエピソードでは人間を猪、犬、獅子、キツツキなど、さまざまな動物に変えてしまう描写がある。

 モーリュの正体とされる実在の植物ひとつに、「芸香」(ウンコウ)がある。オランダ語で”wijnruit”、ヘンルーダと呼ぶ。古代ローマではこのヘンルーダに「眼鏡のハーブ」と呼ばれるほど視力を高める効果があると信じられていたため、当時の画家たちはこれを大量に食べたという。日本には江戸時代に渡来し、葉に含まれるシネオールという精油成分が通経剤・鎮痙剤・駆虫剤などに利用され、料理の香りづけにも使われていたが、ウルシのように接触するとかぶれるなど毒性があるとされ、今はほとんどその目的には使われていない。

 

 

 

⑤ A.R.#170 Valerianella locusta Rapunzel (フェルトザラート)

 

ラプンツェルは「ちしゃ」と訳されることがあるが、本来はキク科のレタス(ちしゃ)ではない。ラプンツェルと呼ばれる野菜はオミナエシ科のノヂシャ(フェルトザラート)、キキョウ科の Campanula rapunculus など複数存在する。栄養価の高いことで知られ、妊婦が食べるのによいとされる植物である。

 

 

 ⑥ A.R.#161 Mandragora officinarum Alraune (マンドラゴラ)

 

 魔法の薬草の王。英語ではマンドレイク、ドイツ語でアルラウネ。根は太く二股に分かれ、地上には大きな葉が広がって生えており、その外観は人間の姿に似ているとされる

 この植物に含まれる毒成分は、アルカノイド系アトロピンと、スコポラミン。これらは副交感神経を遮断、中枢神経を亢進、麻痺を引き起こし、血圧の上昇、脈拍の亢進、分泌機能の抑制、瞳孔の散大を引き起こす。

 マンドラゴラは地面から引き抜かれる際、恐ろしい悲鳴をあげるという。この声を聞いた者は死んでしまうため、耳栓をして引き抜くか、または紐の一方をマンドラゴラに、もう一方を犬に繋ぎ、その犬に引かせて引き抜く。その犬は死んでしまうが、引き換えにマンドラゴラを得ることができる。

 またマンドラゴラにはオスとメスがあるという16世紀に表された図版ではまさしく男性と女性の形のマンドラゴラが描かれているが、実際は雄株雌株の関係ではなく、春咲き(Mandragora vernalis)と秋咲き(Mandragora autumnalis)2種である。春咲きは小さなリンゴのような果実をつけ、甘い香りがする。魔術師が重用したとされるのはこちらの方である。秋咲きはチシャのような縮みのある葉を広げて薄紫色の花をつける。シュメール人は、こちらの根や葉、汁液を歯痛止めや胃薬として用いていた。薬学分野からの報告では、その実を摂取すれば数日間の幻覚を引き起こすが、その後は正常に戻る。実際に死亡するほどの毒性は無く、果実は完熟していればほぼ無害という。

 旧約聖書の「創世記」(29~30章、レアとラケル姉妹のくだり)や、ソロモン王の燃えるような恋愛感情を歌った「雅歌」においては、貴重な惚れ薬として「恋なすび」という植物が描かれている。これはドイツ語で「愛のリンゴ」、英語で「マンドレーク」、ヘブライ語では「ドゥダイム」、ギリシャ語で「マンドラゴラス」と呼ばれ、これらはマンドラゴラそのものとされる。

 こうした媚薬としての歴史は古く、紀元前14世紀頃のファラオ、ツタンカーメン王の墓の壁画に、マンドラゴラを栽培している様子が描かれている。

 

 

 

⑦ A.R.#171 “Papaver somniferum” Gretchen (ケシ)

 

 英名で「poppy」と言えば一般的には「corn poppy(ヒナゲシ)を指すが、日本語での「ケシ」はもっぱら本種を指す。本種は英名で「opium poppy」と呼ばれ、「opium」とは、アヘン、麻薬を意味する。

本種の未熟果に傷をつけると出てくる乳液からアヘンが穫れ、それから精製されるモルヒネや、モルヒネを化学的に変化させたヘロインは麻薬に指定されている。ヘロインは完全な麻薬だが、モルヒネは鎮痛鎮静剤として医学・薬学的に重要で、特にがん患者の激痛緩和や麻酔科、ペインクリニックでの治療に不可欠であり、医師の処方に依る適切な使用に基づけば依存症に陥ることもない。

 ゲーテ『ファウスト』のヒロイン、マルガレーテ(=グレートヒェン)は、悪魔メフィストフェレスによって若返った主人公ファウストとの恋に溺れ、その逢瀬の障害であった実母を誤って殺してしまう。その手段となったのが、ファウストから渡された「眠り薬」であった。この「眠り薬」について『ファウスト』本編では、薬名や成分などの詳細は語られていない。しかしながらゲーテは自然科学者として医学、化学、植物学に造詣が深かったため、その表現内容から、推察することが出来る。「眠り薬」に関する記述のうちに、「液汁」を示す言葉が用いられているが、これは植物の液汁を指すものと思われる。この時代に知られていた植物性の麻酔は、「阿片」または「インド大麻」だが、劇中に語られたグレートヒェンの母を速やかに眠らせる、という作用を考えればインド大麻では作用が弱すぎるため、これが「阿片」であったことが判る。(参考: 小沢敏夫『Gothe, Lessing, Schillerの劇作に現われた毒薬の研究())

 劇中、ファウストはグレートヒェンに「眠り薬」を渡す際、母を眠らせるためには3滴のみを服用させることをつたえていたが、グレートヒェンが与える量を誤ったために、母殺しの悲劇が起こることとなった。

 

 

 ⑧ A.R.#179 Atropa belladonna Atropos (ベラドンナ)

 

 ベラドンナは、「美しい女性」Bella=美しい、Donna=女性)という意味。

 強力な鎮静作用により筋肉を弛緩させるという特性を持ち、目薬として目に差すとアトロピンの作用で瞳孔が開き、目の輝きが増すという。これは中世ヴェネチアの貴婦人たちの間で流行したが、失明や命を失う危険を伴う美容法だった。またその一方、アトロピンは近年ではオウム真理教が使用した毒ガス、「サリン」の解毒薬としても有名となった。

 日本では「ハシリドコロ」といい、シーボルトによって示された。この名は、根が山芋の「トコロ」と酷似していることから誤って食べるものがおり、食べると発狂状態に陥って走り回るという性質から名付けられた。英語では「命を奪うナス属」(Deadly nightshade)、ドイツ語では「気が狂ったサクランボ」(Tolkirsche)。学名の「アトロパ・ベラドンナ」のアトロパは、ギリシャ神話に登場する女神、アトロポスから。アトロポスは未来の糸を断ち切る死の女神であり、全体の意味としては「未来への糸を断ち切る美しい女」となる。ベラドンナの実は、5から10粒ほどで確実に人を死に追いやる。

 ゲーテ『ファウスト』第二部の舞踏会の場面には、ファウストがアトロポスと出会っている記述がある。

 

 

 

⑨ A.R.#173 Hypericum perforatum Salome (オトギリソウ)

 

 『三位一体』の『3』、十字架を示す『4』と共に、ペンタグラムに暗示される『5』という数字もまた、古代から神聖な数字と見做され、魔除けに使われてきた。

 5枚の花弁からなるオトギリソウも、特異な力をもつ植物とされた。ドイツ語でヨハニスクラオト、英語ではセントジョーンズワート、いずれも「聖ヨハネの草」を意味する。このヨハネは12使徒のヨハネではなく、イエスに洗礼を授けた、バプテスマのヨハネを指す。サロメによって首を刎ねられた際、飛び散ったヨハネの血が葉の黒い斑点に、蕾を潰すと得られる赤い汁も、その際の鮮血に例えられた。

 また日本においては、「和漢三才図会」の中にこのような逸話がある。

 平安時代に晴頼という鷹匠が居た。晴頼は殊に鷹の傷を治す天才として有名だったが、その薬草の名前は決して口外しなかった。しかしある時、人の良い弟が薬草の名を他人に漏らしてしまう。これに激怒した晴頼は、弟を斬り殺してしまった。その時、庭で育てていた薬草に弟の血しぶきが飛び散り、これが花びらの斑点となったことから、その薬草の名はオトギリソウ(弟切草)となったという。

 別名をタカノキズグスリ(鷹の傷薬)、チドメグサ(血止め草)といい、薬草としてはその名の通り、炎症、外傷に効果がある。

 

 

 

⑩ A.R.#174 Cichorium intybus Wegwarte (キクニガナ/チコリ)

 

 キクニガナの青い花は、ヨーロッパの薬草学においてはメランコリーの治療や目薬として用いられたという。イスラエル人がモーゼに導かれてエジプトを脱出する前夜、彼らは種無しパンに苦菜を添えて食べた、とされる。(出エジプト記126~8行)この苦菜が具体的にどの植物だったかは明かされていないが、その有力な候補の一つが当時のエジプトで収穫ができた、キクニガナとされている。キクニガナ(菊苦菜)の英名を「チコリ」という。

 ヴェークヴァルテ(wegwarte)はドイツ語で「路傍で待つ」という意味。帰らぬ恋人を待つ乙女が、そのまま力尽きてキクニガナに姿を変えた、という言い伝えがその言葉の由来とされる。詩人リルケがプラハ大学で法律と芸術を学んでいた時期、自費出版で「Wegwarten」という詩集を発刊するが、この伝説からインスピレーションを受けたとされる。

 

 

 

⑪および展示外の2点

 

A.R.#511~530は、バラの原種を見出しに据えた一連のシリーズです。各作品のタイトルは世界各地に伝わる、ごく一般的な民謡や歌曲の原題を用いており、その語感や内容からインスピレーションを受けて作品化したものです。

 

□A.R.#524 Rosa laevigata” Катюша

タイトルの「Катюша」はロシア語で、日本語の読みでは「カチューシャ」と読みます。

その内容は、出征した恋人を想う少女カチューシャの感情を描写したもので。「カチューシャ」とはロシアの一般的な女性の名前である「エカテリーナ」(Ekaterina)の愛称です。

 

□A.R.#525 Rosa rugosa“ Wenn ich ein Vöglein wär

Wenn ich ein Vöglein wär」は、古くからドイツで歌い継がれている民謡を元にした歌曲で、邦題では「小鳥ならば」という訳が充てられています。その内容は「もし僕が小鳥だったら、君の元へ飛んでゆくのに」と、遠く離れた恋人を想う男性の感情が描写されています。日本ではメロディーだけを用いた「夜汽車」という歌で知られ、昔の小学校向けの教科書にも掲載されていましたが、内容は全く違うものです。

 

□A.R.#514 Rosa damascena La Estrella Azul

La Estrella Azul」はアルゼンチンの歌手、メルセデス・ソーサによるフォルクローレ(ラテンアメリカの民族音楽)で、直訳すると「青い星」となります。やはり遠く離れた、もしくは死別した恋人を想う女性の心情を描写した歌ですが、その思いを「青い星」となぞらえ、恋人というモチーフを借りながら、「叶わない願い」を歌っています。また、ピノキオで有名な曲「星に願いを」も、スペイン語のタイトルではLa Estrella Azulとなります。

 

 

 

 ⑫ A.R.#021~#030は、百合の品種を見出しとする一連のシリーズです。このシリーズは、敢えて古来から芸術作品のモチーフとされてきた普遍的なテーマを扱い、自らの感覚による解釈で再構築を試みたものです。

 

 A.R.#021 Lilium regale” Endymion

タイトルである「Endymion(エンデュミオーン)は、ギリシア神話に登場する人物です。神話の中ではエーリスの王であり、その美貌によって引き起こされる月の女神セレネとの悲話が有名です。

ある日山の上で眠っていたエンデュミオーンの美しさに魅了された月の女神セレネは、次第に老いてゆくエンデュミオーンに耐えられなくなり、ゼウスを頼って彼を不老不死にしてしまった。以来、エンデュミオーンは老いることは無くなった代わりに永遠に眠り続けることとなり、セレネは毎夜地上に降りて眠るエンデュミオーンのそばに寄り添っているという。

このモチーフは絵画や彫刻で繰り返し扱われ、有名なものはニコラ・プッサンの『セレネとエンデュミオン』、ジョージ・ワッツの『ディアナとエンデュミオン』など。(ディアナとセレネは同一)