石上和弘展「壁を歩く」


バナナピール   2020   曲げ合板 

昔々、友人のアパートの壁に、1/24スケールくらいの宇宙飛行士の模型が立っていた。その周りだけ、ふわりと空気に軽みがあった。

 

今回の展示タイトルを「壁を歩く」とした発端はそのあたりにあるといっていい。

 

バナナの皮の作品を昨年作ったが、今度はそれを壁に置くことで、壁自体に、物を引っ張るような力を表現できないかと考えた。

 

だから、初めのタイトル案は「壁の重力」であったり、「壁の向き」だったりした。

 

空間の設定を、流動的にしたり、自由に扱えたりしたら、日々生きるうえでスパイスにもなるし、

 

彫刻表現に微力ながらパンチを入れる事ができるのではないかと思っている。

 

(石上和弘)

 

 

Quite a while ago, I happened to meet a 1/24 scale model figure of an astronaut standing on the wall in my friend's apartment.

The atmosphere around it looked lighter like floating.

That may be the reason why I decided my exhibition's title as“Walk on the wall.

Last year I made a sculpture using the motif of banana peel on the ground.

Then I came up with the idea to set it on the wall in an attempt to have it represent gravity of the wall itself.

Therefore, the title candidates were like Gravity of the wallorDirection of the wall.” 

If I could set up the space to be fluid, or I could handle it in freedom,

it would be possible to put the spice in our daily life, or give a little impact on sculptures, I hope.

(Kazuhiro Ishigami)


 

 

「記録集『めぐるりアート静岡2020』より転載」

 

石上和弘の今展の新作は、バナナの皮をモチーフとしたものである(注:上の写真《バナナピール》)その親しみやすさとは裏腹に、造形的には彫刻の本質を突く、たいへん挑戦的な作品である。というのも、彫刻とは自立する固体であるというのが古代以来、彫刻表現の規範の一つであるからだ。内的な構造体が、有機的な運動と均衡によって立ち上がってくるのを表すのである。一方、本作は、置かれた皮である。そこに自立しようとする中身や構造があるはずはないのだ。こうした彫刻の規範の真逆をあえて選びながら、なおそれを彫刻たらしめようとするのが本作である。

 もし本作が単に、置かれた状態で放置された姿を現すものなら、それはものの即物的な様態を提示するに過ぎない。良くても、大きさや文脈の置換による超現実感を示すオブジェか、あるいは大衆的なポップなシンボルとなるかであろう。だが石上は、木を扱う高い技術をもって、それを造形的に組み立てなおすのである。作ることにこだわるその強い意志が、ものを立ち上がらせる。そもそもものは立てようとする人の行為がなければ、立つことはないのだ。かくして、むかれたバナナの皮であっても立ち上がってくる。置かれることと、立つこととの往復が、鑑賞者に彫刻表現の深淵をのぞかせる。大袈裟に言えば、それはひるがえって我々の生の問題ともなる。我々は自らの意志で立って歩いているのか、あるいは社会的存在として、そこに置かれているのか。そう考えるなら、すべってころぶ古典的なギャグでさえも意味深であろう。

 とは言え、たかがバナナの皮である。大袈裟に考えるよりもまずその形や色を楽しむに越したことはない。石上は彫刻の本質を攻めながらも、決して難解なものを作らない。親しみやすい主題と素材を使いつつ、見る人との共感を大切にする。そこには、誰もが地の部分でつながっているに違いないという、人に対する強い信頼があるように思う。

 

堀切正人(常葉大学准教授)

アフターアップル    2017 協力 / UBEビエンナーレ

 バナナピール   2020



 

 

石上 和弘  Kazuhiro Ishigami

 

1966 静岡市生まれ

1991 武蔵野美術大学彫刻学科卒業

1996-2003 同大学非常勤講師

1999 静岡県立美術館非常勤嘱託員 実技室の企画、運営を担当(単年度)

 

個展 

1991 「地面に跡を残す」 かねこあーとG1(東京)

1994 GARDEN ギャラリー+1(東京)

「ブロンズ小品展」 スペース展(東京)

1996 「泉の器」 ギャラリー那由他(横浜)、アートプッシュピン(静岡)

habit-habitat CACギャラリー(東京)

1997 「道のりと目的」 松明堂ホール(東京)

1998 「羊水浴」 ガレリヴォワイヤン(静岡)、ガレリアグラフィカbis(東京)

2000 「生まれ出るところ」 プラスマイナスギャラリー(東京)

2003 「風景に流してしまうもの」 ミクストメディア(静岡)

2004 「アダムの着衣」 元麻布ギャラリー(東京)

   「私を連れて行って」 ギャラリーユイット(東京)

2005 「庭の高さ」 プッシュピンギャラリー(静岡)

2006 room 現代ハイツギャラリー伝(東京)

2007 「脱衣室」 シャギードッグギャラリー(東京)

        「粒子の向こう側」 帝塚山画廊(大阪)

2008 「納屋」 ギャラリーユイット(東京)

      BUS STOP マキイマサルファインアーツ(東京)

2010 「荒野へ」 路地と人(東京)

2012 「牛と物語の大きさ」 RYU Gallery(富士宮)

2013 botanicow 金座ボタニカ(静岡)

2014 「富士景」マキイマサルファインアーツ(東京)

       「ポテトチップス/マン」現代ハイツギャラリー伝(東京)

2015 「チョウコクノモリ/チョウコクノヒロバ」 静岡カントリー浜岡コース&ホテル・カルチャーフロア(浜岡)

2017 「アフターアップル」ギャラリーナユタ(東京)

2019 「木に隠れた人」ギャラリーDEN5(東京)

2020 「船に浮かぶ形 / 船が浮く形」めぐるりアート+グランシップ(静岡)

2021 「木目と地面と」RYU Gallery (富士宮)

 

グループ展 など

1997 神奈川アートアニュアル'97「明日への作家たち」神奈川県民ホールギャラリー(神奈川)

2007「メキシコ.日本交流彫刻展」 MACY(ユカタン州メリダ)

2008 「日本の微熱」高島屋美術画廊(東京) 2010年も出品)

         THE LIBRARY」+「この場所で」 静岡アートギャラリー(静岡)

2010 THE LIBRARY 足利市美術館(栃木)

2013  「あいちトリエンナーレ2013キッズトリエンナーレ」でワークショップ[私の心が雲に乗る](愛知)

2015  「めぐるりアート静岡」静岡県立美術館

         「神戸ビエンナーレ アートインコンテナ国際展」 準大賞受賞(兵庫)(2009,2011年も出品)

2017 「第27UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」島根県吉賀町賞、市民賞、受賞(山口)

2018 「めぐるりアート静岡」東静岡アート&スポーツ/ヒロバ(2020年も出品)

 

Artist HP

 《木畳》kitatami   2021


石上和弘展「壁を歩く

Kazuhiro Ishigami Exhibition [Walk on the wall] 

2021. 10.1 (Fri) - 10.16 (Sat)       

12:00 - 19:00   Lastday - 17:00    水曜休廊 Closed on Wednesdays